中小企業診断士・なべケンの管理職・経営者におススメする今月の1冊
「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」第2回目
著者 ジェームズ・C・コリンズ 日経B P社
今回も前回に引き続き、ベストセラー『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』を取り上げます。
前回の復習も兼ねて申し上げると、本書では、ビジョナリーカンパニーになるための要因は、以下の7つであると分析しています。
- 第五水準のリーダーシップ
- 最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
- 厳しい現実を直視する
- ハリネズミの概念
- 規律の文化
- 促進剤としての技術
- 弾み車と悪循環
前回は、①第五水準のリーダーシップと②最初に人を選び、その後に目標を選ぶ、という論点をみてきました。今回は、③厳しい現実を直視する、④ハリネズミの概念について、私なりの考えを交えてお伝えしていきたいと思います。
厳しい現実を直視する
本書では、次の重要な点が述べられています。飛躍を遂げた企業は、次の二つの特徴があると言うことです。一つは、意思決定の全過程にわたって、厳しい現実を直視する姿勢を貫き、かつ最後には必ず勝つと確信を持つこと、二つ目は、単純だが極めて賢明な判断の枠組み(ハリネズミの概念)を用いているということです。まず、前者について、みていきたいと思います。
本書では、様々な事例を用いて、業績低迷から抜け出した企業のポイントを次のように述べています。
- 飛躍した企業は厳しい現実を認識して、偉大な企業への道を絶えず見直している。
- 経営者のカリスマ性は、強みになることもあるが、弱みになることもある。
- 真実に耳を傾ける社風、厳しい現実を直視する社風を作ることが重要である。
- 飛躍を導いた指導者は、理解しようとする努力を行い、質問によって、企業を適切な方向に導く。
- 飛躍を遂げた企業は全て、激しい議論を好む傾向がある。
- どんな困難でも最後には必ず勝つという確信を失ってはならない。
私は15年にわたり、事業再生のコンサルティングに従事してきましたが、まさに、この点は、日頃からよく感じていることです。逆説的に言えば、業績が悪化した企業(以下、「再生企業」と言います)は、前述の6つのポイントの逆のことをしています。具体的に言うと、まず、①と③に関して、再生企業は次のような特徴があります。再生企業は、厳しい現実から目をそらし、対処療法的な手ばかりを打とうとします。具体的には、業績が悪化してきても経営者が役員報酬を下げなかったり、無駄な経費を相変わらず使い続けます。また、資金を回す対処療法として、銀行から融資を受けるために、粉飾決算を行います。トップがそういう考えであるから、当然従業員に、現状を伝えることもしないし、現実を直視する社風も生まれません。次に、②と④に関しては、次のような特徴があります。経営者は、自分のことしか考えていないので、業績が悪化した途端に従業員の給料を下げようとします。また、自分が一番努力している、大変な立場であると力説します。当然、従業員のモチベーションは下がります。そして、従業員の声に耳を傾けることなく、下からも情報が上がって来なくなります。そして、最後に、⑤と⑥に関して、経営者がそうなので、従業員は上に何を言っても無駄だという気持ちになり、意見を言わず、議論をしなくなります。コミュニケーションすら十分に取らなくなり、不満分子が溜まっていきます。その結果、従業員がもうダメだという雰囲気になり、それを感じた経営者も、従業員のせいにして諦めの気持ちに変わります。再生企業には、こうしたパターンがよくあります。
私自身は、本書で論じられているポイントについては、非常に共感しました。まさしく、再生企業を回復させていく過程では、これらの6つのポイントが非常に重要です。いえ、再生企業だけではなく、全ての企業にとっても大事ではないかと感じます。
ハリネズミの概念
本書では、飛躍を遂げた企業は、「ハリネズミの概念」によって行動していると述べています。ここで言うハリネズミの概念とは、古代ギリシャの寓話にある「狐は賢い動物で複雑な作戦を次々に編み出してハリネズミを不意打ちにしようとするが、ハリネズミは毎回、鋭い針で防御し、最後にはいつも勝つ」と言うものです。偉大な企業への飛躍を導いた経営者は全員がハリネズミ型で、飛躍しなかった比較対象企業は、狐型が多かったと言っています。ハリネズミの概念とは、次の三つが重なりあう部分はどこかを理解することです。
- 自社が世界一になれる、あるいは、なれない部分はどこか?
- 経済的原動力になるものは何か?飛躍した企業はキャッシュフローと利益を継続的かつ大量に生み出す最も効率的な方法を見抜いている。
- 情熱を持って取り組める事業は何か?
この考え方にも、私は非常に共感を持つことができます。まず、世界一とまで言わずとも、そのぐらいの強みや独自性、差別化ポイントがないと競合企業との競争に負けてしまいます。これは、著名な経営者のほとんどが言うことです。伝説の経営者と言われたジャック・ウェルチも、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」と主張していたのは有名な話ですよね。次に、企業は経済的原動力を生み出し続けないと、永続できません。経済的原動力とは、キャッシュフローであり、利益です。事業には、必ずと言っていいほど、ライフサイクルがあり、良い時もあれば、悪い時があるのも当然です。良い時のキャッシュフローや利益を蓄積しておかなければ、状況が悪化した時にすぐに行き詰まってしまいます。また、将来の成長のためには必ず投資が必要になります。そのためには、キャッシュフローや利益の蓄積が非常に重要なのです。そして、最後に、情熱がなければ、人間は長続きしません。企業や組織は、個人が集合したものです。人間は、感情で動きます。従って、情熱が重要になるのです。これは、経営理念などにも置き換えられます。社会に貢献したいという強い情熱を経営理念に埋め込み、浸透させることにより、個人個人が情熱を持って取り組むようになります。そうして、組織が一体となり、企業が成長する要因になるのだと思います。リッツカールトンの経営理念やクレドは有名な話ですよね。同社の場合、従業員全員がそういった理念や行動規範に共感し、品質の高い顧客サービスを提供することで、非常に強い企業を作り出しているのだと思います。
以上、今回は、経営陣ならびに企業としての考え方について、見てきましたがいかがだったでしょうか。今回の内容は、私の事業再生コンサルティング業務においても非常に役立つことが示唆されていました。本書全体は、非常に分厚い本なので読むのが大変ですが、もし、ご興味あれば、今回の内容に関する部分(第4章、第5章)だけでも読んでみてはいかがでしょうか。普段の業務に非常に活用できる内容だと思います。
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