管理職・経営者におススメする今週の1冊は
「漫画 君たちはどう生きるか」です。
唐突ですが、皆さんは、人生の指針となるような考え方や言葉を持っていますか?
また、人としてどのような生き方をするべきか考えたりしますか?
私は、よく考えます。何をするために生まれてきたのか?生きる目的は何なのか?自分は何を成し遂げるべきなのか?など、ふとした時に考えてしまいます。
そこで、今月ご紹介したい一冊は、「漫画 君たちはどう生きるか」です。1937年に出版されて以来、数多くの人に読み継がれてきた名作「君たちはどう生きるか」の漫画版です。
人間としてどう生きればいいのか、読んでいるうちに自然と考えるように書かれた本書は、子供はもちろん多くの大人たちにも歴史的名著と言わしめたものです。漫画版は、212万部を突破し、amazon2018年和書ランキング一位、オリコン年間「本」ランキング2018 年一位などを獲得しています。
本書は、中学(旧制中学)二年生の主人公であるコペル君が、叔父さんとの対話や叔父さんからコペル君に宛てられた一冊のノートを通して、人間としてどう生きればいいのかを学んでいきます。中学生・高校生向けの哲学・道徳書です。しかし、大人でも十分に考えさせられる内容です。
ノートの内容は、主に下記の五項目で構成されています。
最初は、「ものの見方について」です。子供のうちは、天動説のように自分を中心にして物事を見てしまいがちだということを、叔父さんは注意喚起しています。そして、大人になると地動説のように広い世界のなかで、物事や人を理解することが必要だと言っています。特に、損得に関わることなどは、自分を離れて正しく判断することが非常に難しいとも述べています。人間は、大体が、自分勝手な考え方に陥り、自分の都合の良いことだけを見てしまいがちです。これは、日常生活でもビジネスでも重要な考え方だと私は思います。大局的に物事を見たり、相手の利害と自分の利害を双方とも最大化させるというのは、仕事でも非常に大事です。近江商人の三方良しは有名な言葉ですよね。この三方は、「売り手」「買い手」「世間」です。売り手の都合だけではなく、買い手のことを第一に考え、その結果、地域社会への貢献につながるようにとの考えは、多くの経営者の指針となっています。
二つ目は、「真実の経験について」です。どんなに偉い人が残した言葉や、書物などに書いていることよりも、自分が経験して本当に感じたことや心が動かされたことを出発点としてその意味を考えていくことが非常に重要だと、叔父さんはコペル君に伝えています。いくら立派な人間や尊敬される人間だと言われても、言われた通り、教えられた通りに生きていては一人前ではないということです。一人前、立派な人間について、自分自身でその定義、中身を本当によく考えることが重要だと叔父さんは書いています。企業の経営にも同じことが言えます。崇高な経営理論やセオリーを当てはめても、上手くいかないことは多々あります。私も企業の支援をする際に重要にしているのは、答えは現場(経験)にあるということです。現場で起きていることに真摯に向き合い、解決策を導き出すことによって、骨太な組織ができます。そもそも経営理論やフレームワーク、セオリーというのは、実際の現場での解決事例から生まれたものです。そのことをしっかりと理解することが重要です。
三つ目は、「人間の結びつきについて」です。生産関係や社会の中で、人間は様々な人たちと網目のようにつながり合って生きています。この中で本当に人間らしい関係とはどのような関係かと、叔父さんはコペル君に問うています。争うことなく、お互いに好意を尽くし、それを喜びとする関係こそが美しいと伝えています。さらには、学問についても次のように述べています。人類は経験からまとめあげた学問を積み重ねて、新たな発見や叡智を生み出してきたからこそ、発展してきたのです。従って、偉大な発見がしたかったら、学問の頂上に登りつめてその上で仕事をするべきで、そのために、自分の疑問をどこまでも追っていく精神を忘れてはならないと伝えています。この言葉は非常に深く考えさせられます。我々が生きている世界は、過去の先祖の絶え間ない努力によって築き上げられたもので、人類が永続的に発展していくように、我々自身も行動していかなければなりません。そのために、一人一人が考え、行動していくことが大事だと受け取れます。生きている目的は何かと考えた時に、自分の収入や楽しみなどだけでなく、もっと大きな視点で考えることが人間的成長だと気付かされます。社会全体や人類の発展にいかに貢献するか、を自分自身だけでなく、組織全体に浸透させることで、統一された目的意識を持った真の強い企業になると思います。そして、そのような経営理念が末端まで浸透している企業は、業績が良いケースが非常に多いと言えます。
四つ目は、「人間の本当の値打ちについて」です。人間の本当の値打ちは、着ているものや住居、食べているものやお金などではなく、自分自身に本当の自信を持っていることだとコペル君に伝えています。そして世の中には貧困に苦しんでいる人が多数いる中で、なんの妨げもなく勉強できていることがどんなにありがたいことか感謝することの重要性を問うています。社会はさまざまな人たちや、職業で成り立っていて、それに上等、下等などなく、世の中に何かを生み出すこと自体が大事だと言っています。私たち経営者、もしくは管理職の人間として意識し続けないといけないのは、組織の中で働いてくれる人たちがいるからこそ、商品やサービスを生み出せているということです。地位や権力を持つと、他人に対して横柄になったり、部下の仕事内容を否定したりしがちです。そうではなく、現場で働いてくれる人も、管理をする人も一体となっているからこそ、素晴らしいものを提供できるのだということを肝に命じておく必要があるでしょう。
最後は、「人間の偉大さについて」です。人生には悲しいことや辛いこと、苦しいことがあります。正常にはない状態を脳が理解することで、幸せを感じることができます。そういう辛いことは、なくてはならない有難いことだと考えることが重要だと、叔父さんは書いています。そして、自分勝手な欲望やつまらない見栄を持っている人は、自分を不幸だと思ってしまうため、そもそもそんなものを捨てれば苦しむことはないと伝えています。さらに、人間であるからには過ちは必ずあり、そういう意識を自分自身で本心として認めることが大事だということです。過ちを認めることは人間だけができることであり、だからこそ、何が正しいかを考え、行動し、真理を知ることができるのです。私たちは、失敗や過ちをどのように捉え、生きていくかが重要です。失敗は成功の母という言葉もあります。また、著名な経営者は、さまざまな施策を実行しても成功するのは一割もしくは二割だと言っています。その失敗から何を学び、自分自身や組織の成長につなげていくかが大事だと思います。私は、行動こそが大事だと思っています。考えて行動しない人はたくさんいます。行動しないよりも、行動して失敗し、考えを改善することで新たなものが創造できるのではないでしょうか。
以上のように、本書は人間的成長のための哲学・道徳書であるとともに、企業経営の現場にも行かせる内容が多く含まれています。叔父さんがコペル君にノートを通して何を伝えたかったのか、読めば読むほど、自分自身への問いかけが増えていきます。是非、大人の皆さんへもお勧めするとともに、お子さんがいらっしゃる方は、ご家庭でも対話の材料に使えると思います。