管理職・経営者におススメする今週の1冊は、「話し方入門」第二回
今回も前回に続き、デール・カーネギーの「話し方入門」についてです。前回は、準備の重要性についてでしたが、今回は、心構えや考え方、態度といった精神的な部分に焦点を当てたいと思います。結婚式のスピーチや講師の仕事を引き受けた時、皆さんはどんな気持ちになりますか?不安にかられたり、緊張したりしますよね。私も初めての研修講師の仕事は、足が震えていたのを今でも覚えています。それでも、気づかれないように、平静を装うようにしていました。今回の内容は、そのような不安や緊張に対処する際にも役立つと思います。
根気が肝心
何かを習い、上達させようと思った時に、一番肝心なのは根気であると本書では述べています。上達や進歩は、漸進的なものではなく、急発進と急上昇の繰り返しであると言っています。長く停滞する時もあれば、急に上達する時もあり、不思議な現象が起こるにもかかわらず、途中で気力をなくし、投げ出してしまう人が非常に多いとのことです。従って、そのような不思議な事実を知った上で、根気強く努力を重ねることが大事で、そうすれば、最初の恐怖心は消え去っているだろうと説いています。さらに、努力を継続するために大事なことは、願望の強さと深さ、情熱であると述べています。
これは非常に大事な考え方で、著名な経営者やスポーツ選手なども言っていますよね。メジャリーガーのイチロー選手は、再三、努力の重要性をコメントしています。そして、ビジネスにも、爆発点という考え方があります。例えば、小売店などでは、ある程度の量を陳列し、目立たせると、売れ行きが急に伸びるのです。このように、努力の量が正比例して成果に結びつくのではなく、蓄積されたものが、一気に花開くということを認識していることが非常に重要です。そして、そのためには、継続できる強い気持ち、情熱が必要なのです。私自身も、社会人になって、いくつか資格を受けてきましたが、情熱や熱意を持って取り組んだものは一回で合格しています。反対に、気持ちがあまり入らなかったものは、尽く不合格となりました。皆さんもそのような経験があるのではないでしょうか?努力を継続すること、そのために情熱を持ち続けることの重要性は、頭では分かっていても行動に移すのは非常に難しいと思います。しかし、それを認識し、心に留めておくだけでも、今後の行動が変わり、成果に結びつくのではないかと思います。
話し手の態度と人柄が重要
著者は、ビジネスにおける成功は、高度な知識よりも人柄が大きく影響していると言います。そしてスピーチもそうだということです。人柄は、遺伝と環境によって決定されているため、変えることは非常に困難だが、やり方次第で、魅力的なものにすることができると述べています。きっちりとした服装で望み、スピーチ前にしっかりと休息をとり、食事は胃に血液があまり行かないように抑え、エネルギッシュに話をすることを勧めています。そして、不安や緊張があっても、精神的、肉体的に落ち着いた雰囲気を醸し出すように心がけることが大事です。具体的には、胸を張り、不必要に身体を動かさず、ジェスチャーも自然にとのことです。
人は見た目が大事だという著書も多くあります。そして、話は、内容よりも話し方による影響の方が大きいということは多くのビジネスシーンで言われています。私自身も営業職の時に経験したことがあります。話し方があまり上手ではなく、商品知識も乏しかった新入社員の頃は、非常に営業成績が良かったのですが、三年目ぐらいから成績が芳しくなくなりました。三年目にもなると話し方も上手くなり、流暢に説明をできるのですが、お客さんの都合を考えていなかったり、情熱をもって話していなかったのだと思います。反対に新入社員の頃は、本当にお客さんのことを考えながら、エネルギッシュに話をしていたのだと思います。その時の経験から、今では、講演や研修講師の時だけでなく、普段お客さんと話をする時も、感情豊かに、相手に興味を持ちつつ、活力を持って話をすることを心がけています。
母国語を正確に美しく使いこなすことが大事
著者は、多くの人が学校を卒業すると語彙を増やしたり、正確・的確に話したりしようと意識的に努力することなく、人生をうかうかと過ごしていると嘆いています。人は、言葉遣いや語彙力によって、教養があるかないかを宣言しているとのことです。そして、リンカーンなどの偉大な人たちは皆、読書を大事にしているとのことです。言葉を豊かにし、語彙を増やしたいと思う人は、絶えず、頭を文献という大きな桶の中に浸すべきだと言っています。さらに、読書によって、出てきた知らない言葉の意味を注意深く調べる習慣を持つことが必要だということです。
私たちは、このことに以前にも増して注意しないといけないかも知れません。最近の政府の調査では、成人十人中四人は一年に本を一冊も読まないようです。また、成人の年間読書量は平均八冊とのことです。インターネットが発達し、情報収集が容易になりました。その結果、誰か分からない一般の人が書いた情報や間違った言葉、言い回しをそのまま受け止める人が増えています。従って、言葉を正しく使う能力が低下しているだけではなく、読書をしないので、教養も減っていると思われます。最近は、以前よりも一般の人たちが出版することが容易になりましたが、多くの書物は、専門家や有識者、言葉を正しく操るジャーナリストなどが書いています。そのため、語彙力を増やし、正確・的確な言葉の使い方を学ぶには読書は必要不可欠だと思います。私自身も、月に十冊以上、書物を読むことを心がけていますし、当然の事ながら、毎日新聞にも目を通しています。そして、分からない言葉や情報をインターネットなどで調べたりしますが、一般人が書いたものか、専門家のものかなどは必ずチェックします。さらに、他の似たような情報を比較検討し、正確かどうか確認します。そのぐらい注意深く情報を吟味します。そして、その時間を考えたら、インターネットで調べるより、有識者の本を読んだ方が早いということも多々あります。
今回は、心構えや考え方、態度といった精神的な部分について見てみましたが、全体的に、普段からの心がけと継続が大事であるということが言えると思います。根気よく努力を継続し、読書によって語彙力や教養を増やし、人としての魅力が表に出るよう、普段から行動していくことの重要性を著者は言っているような気がします。そして、これは、他の著名な経営者やスポーツ選手も同じように言っていることなのです。スピーチだけではなく、ビジネスで成功するためには、今回の内容はまさに真理であると言えるでしょう。