中小企業診断士・なべケンの管理職・経営者におススメする今月の1冊
「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」第3回目
著者 ジェームズ・C・コリンズ 日経B P社
今回取り上げる『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』もいよいよ最終回となります。
もう一度復習をしますと、本書では、ビジョナリーカンパニーになるための要因は、以下の7つであると分析しています。
- 第五水準のリーダーシップ
- 最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
- 厳しい現実を直視する
- ハリネズミの概念
- 規律の文化
- 促進剤としての技術
- 弾み車と悪循環
前回までに、①〜④について、お伝えしてきました。今回は、⑤規律の文化から、⑦の弾み車と悪循環までをみていきたいと思います。
規律の文化
本書では、偉大な業績を維持するカギは、自ら規律を守り、規律ある行動をとり、人でなくシステムを管理することだと言っています。
規律の文化をもう少し具体的にいうと、次の4点が必要だということです。
- ある枠組みの中で自由と規律という考え方を中心とした文化を築く
- 自ら規律を守り、責任を果たすために最大限の努力を惜しまない人を集める
- 規律をもたらすのは暴君ではなくあくまで文化である
- ハリネズミの概念を徹底して守り、これに該当しないものを徹底的にやめていく
ちなみに、ハリネズミの概念の要件は以下の通りです。
- 自社が世界一になれるもの
- キャッシュフローと利益を継続的かつ大量に生み出すもの
- 情熱を持って取り組めるもの
巷の組織論の教科書などでは、よく権限と責任という考えが出てきます。自身で自由に意思決定できる権限を与えられるということは、責任を負わなければならないということです。本書で言われている自由と規律は、私が思うには、もう少し深い意味があるような気がします。つまり、仕事には、それぞれ最終的な責任があり、それを果たすためには、個人個人が規律を持って、組織が決めた枠組みを守らなければならない。しかし、一方で、最終的な責任を果たすと言う過程において、自由に意思決定ができるように権限や創造性を与えているということです。そして、今までの組織論的な教科書と大きく違うのは、システム(枠組み)を作って人を管理するのではなく、採用の段階から規律ある人材を集め、システム自体を管理しているということです。通常、一般的な企業では、人を管理していることがほとんどだと思います。例えば、目標管理制度を入れている場合は、個人別に目標数値を設定し、そのためにどのように行動するか、あるいは、今後どのように改善するかなどを上司が管理します。また、給与や賞与の査定等をこれに反映させるということを行っているケースが多いのではないでしょうか。本書の論点の中で一般の経営理論と比べ、似ているようで違うことがあります。それは、偉大な企業は、最初から規律ある人材を採用し、企業文化を作り上げているからこそ、業務上の自由度を与えることができるという点です。人を管理するのではなく、システムをどのように構築すれば、個々人が目標を達成したり、責任を果たせるかを考えているということだと思います。人の管理ではなく、組織システムの管理が重要だということです。
促進剤としての技術
技術(テクノロジー)は、ベンチャー企業や、大企業のイノベーションによる成功事例などで語られることが非常に多いのではないでしょうか。そのため、大企業だけでなく、中小企業にもテクノロジーありきの成長戦略を描く経営者は多いと思います。
しかし、本書では、偉大な業績を遂げた企業は、技術ありきではなく、むしろ、技術の流行に乗るのを避け、ハリネズミの概念にその技術が融合していれば利用するのだと書かれています。これは、私たちがよく混同する目的と手段の関係と同じだと思います。人間は、得てして、手段を目的化しがちです。例えば、一昔前の受験競争などもそうでしょう。良い大学に行くというのは、そこで勉強した知識やノウハウを、将来活用し、社会に貢献するためだと思います(働いて収入を得ることがそもそも社会貢献です)。しかし、学生の中には、大学入学がそもそもゴールになってしまい、手段が目的化してしまっているケースも少なくないのではないでしょうか。
これと同様に、企業における技術というものは、手段でしかありません。偉大な飛躍を遂げた企業にとって、ハリネズミの概念に沿った事業を行うことが目的であり、それにあった技術を利用するというのは手段です。偉大な飛躍を遂げた企業は、そのように考えているからこそ、成功しているのだと思います。目的に対し、それを成し遂げる手段は無数にあるはずです。目的(ゴール)を明確にし、数ある選択肢の中から、自分たちの目的に沿った方法を選択していくことが、企業活動にとって重要なのは明らかです。
弾み車と悪循環
そして、最後に、偉大な飛躍を遂げた企業は、どれも一気に飛躍したわけではなく、弾み車に勢いがつくように、最初はゆっくりと、そして、動き出すにつれ、段々と勢いがついて飛躍を遂げたと論じられています。それは生物の成長にも似ていると言っています。
このあたりは、自然の法則同じと言っても過言ではないような気が、私はしています。人間でもそうだと思います。勉強でもスポーツでも、習い事でも全て、日々の努力、鍛錬の継続によって生まれてくるものだと思います。人生でも、企業でも、爆発点というものがあると、私はいつも考えています。最初のうちは、努力をしても、成果になかなか結びつかないことが多いです。しかし、その苦しい時間を我慢した結果、たった一日で大きな転換を遂げる時があります。私自身は、大学受験の時もそれを感じましたし、長年仕事をしてきて感じてもきました。蓄積された知識やノウハウ、人脈がある一定の水準を越えると、爆発的に広がりをみせ、繋がる部分(結節点)が増えるからだと思います。経営学的な言葉で言うと、ネットワーク効果に近い考え方ではないでしょうか。ネットワーク効果とは、同じプラットフォームやサービスを利用するユーザーが増加することによって、それ自体の効用や価値が高まることです。例えば、マイクロソフトのワードやエクセルがそうでしょう。事実、マイクロソフトオフィスはほぼ独占状態です。そういった効果を出すためには、何をするにも一定の蓄積が必要だと、私は感じますし、ある意味、法則といっても良いかも知れません。
以上、3回にわたって、本書の内容についてみてきましたが、いかがだったでしょうか。本書の内容を見てみると、今まで世間で言われていたような経営理論と若干違う点があると、私自身は感じました。特に偉大な飛躍を遂げた企業は、以下の点において、世間で頻繁に言われていることと違っていると感じます。
- 偉大な飛躍を遂げた企業は、カリスマ的なリーダーシップを持った経営者に導かれたものではない
- ハリネズミの概念に沿わないものはやらない、むしろ削ぎ落としていく
- 人を育成したり、管理するのではなく、規律のある人材を集めることに力を注ぎ、人を管理するのではなく、システムを管理する
- そして、ひたすらその企業としての目的を達成するために邁進する
巷には、さまざまな経営者の成功法則や、企業の成功事例を書いた本がありますが、それらと比較して読んでみると、考え方の違いも比較できて面白いのではないでしょうか。本書は、間違いなく名著と呼ばれ続ける本であるとあらためて感じました。
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