経営改善・事業再生ノウハウ集

超超短編小説「目の前に太陽が!〜連帯保証が解除された〜」

2013年1月13日

目の前に太陽が!
~連帯保証が解除された~

■2012年2月14日

「賢太郎、びょんどに、びょんどに、ありがとう。何度言っても言い足りないぐらいだよ。ありがとう。俺、人生これから先もずっとこんな重い荷物背負って生きていかないといけないと思ってたけど、やっと自由になれた気がする。この恩は一生忘れないよ。ううっ、ありがとう。」

「ハハハハッ、おいおい、『本当に』が、『びょんどに』になってるぞ。大の男が泣くなよ。これから希望に満ちた人生が待ってるんだからさ。でも、本当によかったな。武雄が十年以上も悩んでたことが解消されたんだから。よかった。よかった。さて、乾杯しようぜ。ほら、ジョッキ持てよ。よし、それでは、今後の武雄の新たなる船出にかんぱ~い!」

「いや~、ビールがこんなにうまいとは今日初めて知ったよ。ハハハッ。」

武雄は涙がまだ目に残っている最中から、いつもどおりの愛嬌のある笑顔を見せた。中本武雄は、38歳独身の会社員である。身長は165cm、ふっくらとした体型に愛嬌のある顔をしている。周りからは『カールおじさん』と呼ばれて親しまれている。渡部賢太郎は、大学を卒業して最初に入った会社の同期である。以来、十五年の付き合いである。武雄の周りの友人たちは武雄をカールおじさんと呼んでいるが、賢太郎は必ず武雄と呼ぶ。

「でもさあ、賢太郎、俺には素人だから未だによく分からないんだけど、お前には最初から分かってたのか?俺の親父の借金の連帯保証が本当になくなるとは全然想像もつかないし、予想だにしてなかったよ。今でも、何故銀行が連帯保証を免除してくれたか全然理屈が分からないよ」

「ああ、前々から言ってるけど、俺は中小企業の再生を支援する仕事をしてるんだぜ。こんなケースは前から散々見てきているよ。銀行も株式会社だから利益を上げなければならないことは分かるよな。つまり、今回のケースでは、親父さんが自己破産してしまったから武雄が連帯保証人として借金を返さないといけない立場になった訳だけど、銀行としては武雄からの回収額を一円でも多くすることが最大のポイントになるわけだよ」

「それなら、銀行は俺にずっと返済を続けてもらった方がいいんじゃないのか?」

「通常はそう思うよな。確かにそういう考え方もある。でも、もし武雄がだよ、『自分も父親と同じように自己破産をします』って言ったら銀行は一円も取れないことになるよな」

「まあ、確かにそうだな。俺には貯金も全然ないし、ましてやまだ親に仕送りするために借りたカードローンもあるくらいだからな。一円も取れないよな。」

「そうそう。そこがポイントなんだよ。今回、武雄は自己破産手続きの費用は親戚から無理言って借りて、手続き申請した訳だけど、それを借りなければ貯金もほとんどないし、車も持ってない。ましてや、自宅を持ってる訳ではない。武雄に自己破産されると銀行はほとんど回収できないことになるんだよ。それよりは、今回のように『何百万円かを用意して銀行に返済するから、四千万円の連帯保証を解除してくれ』って言った方が、銀行にとっても自己破産を考えている連帯保証人から回収する手段としては経済的利益も大きいわけだ。たった、それだけのことだよ。でも、武雄がそこまで覚悟出来たことが一番大きなポイントだったんだけどな。」

「自己破産の覚悟!?ってこと?」

「そうそう。それがなければ銀行も簡単には解除に応じてくれないよ。」

「まあ、分かったような、分からないような......。とにかくありがとな!賢太郎。お前は俺の恩人だ!」

「後は、結婚相手を早く見つけることだな!それだけは、俺にも手伝うことできないからな!」

「賢太郎は恋のコンサルタントではないのか?」

「違うに決まってるだろ!ハハハハハハッ」

賢太郎はビールを飲みながら、一年前に武雄から相談された日のことを思い返していた。目頭が熱くなった。親友が悩んでいる連帯保証人の件を解決できたことが何よりも嬉しかった。こんな俺でも人の役に立てるんだ、と。

武雄は、兵庫県の県北の出身である。実家は肉牛を扱う畜産業をしている。武雄が大学を卒業して間もなく、実家の経営状態が急激に悪化してきた。そこで、父親から頼まれ、銀行からの借入金の連帯保証人になった。その後も、経営状態は改善せず、武雄は毎月実家に仕送りをしていた。それでも足りない時は、自分でカードローンを借りて仕送りをしていた。
そんな状態が十年ほど続いた後、約一年前に父親から電話がかかってきた。もう商売を続けてもうまくいかないから廃業しようと思うとのことだった。
父親は六五歳、実家の畜産業をしながら年金をもらっていた。廃業、自己破産をしても年金で生活できる。その後、最終的には廃業、自己破産という形で借金を整理したのである。
一方の武雄は、父親の残りの借金四千万円の連帯保証人である。父親が自己破産をすれば、自分が返していかないといけなくなる。武雄にはそうした知識が乏しいため、親友の賢太郎に相談したのである。幸いなことに、賢太郎は独立して経営コンサルタント業をしていた。専門は事業再生分野であり、中小企業を相手に金融機関からの借入金をどのようにすれば整理できるか、もしくは負担を軽減できるかを日々アドバイスしている。経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士も取得している。
一年ほど前から賢太郎は武雄の相談に乗り始め、一つ一つ話を整理しながら仕事の合間をぬってアドバイスを続けてきた。仕事ではなく、友人を助けたいという一心だけである。もちろん、報酬などは一切もらっていない。結果的に、武雄の連帯保証も約二百万円を銀行に一括返済すれば、解除に応じてくれるということで、武雄は親戚に頭を下げてその二百万円を借り、返済した。

そんなことを思い返しているとき、ふいに武雄が口を開いた。
「賢太郎、お前はこの先も今の仕事を続けるのか?」

「まあ、今の仕事は世の中の役に立ってると思うし、当分は続けると思うよ。でも、小さい時からの夢である起業のことも将来は考えている。やっぱり、何かしら起業をして事業展開・拡大して社会に貢献したいからね。俺の考えは、税金をより多く納めることが社会貢献だと思ってるから、なるべく会社を大きくしたいんだよなあ。まあ、日々努力しながら考えていくよ。武雄は?」

「俺は、今の会社でもっともっとお客さんや会社の役に立てるよう頑張るよ。やっと、背負ってた大きな荷物も降ろすことができたし。賢太郎のおかげだけど。これからは仕事一筋で頑張るよ。あっ、嫁さんも見つけないとな。ハハッ。」

結局、二人は夜中遅くまで飲んで、武雄の再スタートの日を楽しんだ。

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